コムスンとグーグルに見る理念のウソ・ホント
孫子の言葉に
「孫子曰く、兵は国の大事。死生の地、存亡の道なり。察せざる可からず。
故に、之を経するに五事を以てし、之を校するに七計を以てして、其の情を索む。一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法。」
という五事七計という言葉がある。
相手と自分について必ずこれを比較調査し、自分が相手に勝ると判断できる時以外は戦争をしてはならないという原則である。これは、現代の経営にも当然求められている。そこで多くの企業では、SWOT分析等の「分析手法」利用しながら、この言葉が実践されている。
しかし、この言葉を上滑りで理解してしまっているケースが多い。そこで、数回に分けて、この言葉の奥を考えていきたい。今回「道」にテーマを絞っていく。
孫子は、五事七計の「道」について以下のように説明している。(一番最初に書いているので、当然、一番重要だと孫子は考えたのではないか?)
道とは、民をして上と意を同じくし、之と与に死す可く、之と与に生く可く、畏危せざらしむるなり。
民衆の意思を君主に同化させる、理念の正しさ。 ふだんから理念が実行されているからこそ、戦争になっても、民衆に統治者と死生を共にさせることができ、民衆は政府の命令に疑いを持たないという意味である。
企業では、この理念を経営理念なり、ミッションと呼ぶ。
経営理念の大事さを説くビジネス書もたくさんある。
有名どころで言えば、エクセレントカンパニーやビジョナリーカンパニーなどである。
日本でも京セラの稲森和夫会長などの書物には、いつも書かれてある。
しかし、これだけその重要性が説かれているにも関わらず、多くの企業においては理念について誤解が多い。
* どこかの経営理念をパクって作っただけの経営理念
* 単なるお飾りとして、事務所の中央の額に掲げてあるだけの経営理念
* 毎日、機械的に朝礼の際に唱和されているだけの経営理念
こんな表面的な経営理念のとらえ方の企業が非常に多いのが現実である。
経営理念の浸透とは、当然、こんな事ではない。
経営理念の浸透度、実践度を考える際に、最もシンプルなものは、「経営理念の為に、どれだけの利益(もっと分かりやすく言うならば現金)を犠牲にする覚悟」が実行できているかという視点ではなかろうか?この「利益よりも重要な何か」の実践が、その「何か」に対する社長の本気度を社員は感じ取り、それを実行しようとするのではないのだろうか?
今回のコムスンの事例も、理念を誤解しているケースではなかろうか?
コムスンのミッションは、「一人でも多くの高齢者の尊厳と自律を守る」という事だそうだ。
http://www.comsn.co.jp/company/mission/index.html
実行されれば、非常に素晴らしい、意義のある理念だ。
その実践という事では、「一人でも多く」という部分についての理念については、厳しい業績管理により徹底されていたようである。
しかし、「高齢者の尊厳と自律を守る」という部分については疑問が残る。高齢者へのサービスができなくなるかもしれないリスクを生んでいくような、水増し請求は当然、理念を折口氏が本気で考えていたら行わないだろう。当然それがバレそうになると、廃業(店舗閉鎖)による「連座逃れ」も行わなかったに違いない。
コムスンが急に閉鎖を何も勧告なしに行ったために、訪問介護難民となってサービスを急に受けることがでいなくなったお年寄りの姿をTVでよく見る。利益の為に「高齢者の尊厳と自律を守る」という理念が犠牲になっている状況が分かる。(今回は、いつものような先手閉鎖戦略を行おうとする前に、厚生労働省に先手を許してしまい、ゲームオーバーになりかけているという事なのだろう)
6月8日、グッドウィル・グループの折口雅博CEOは介護事業を行う傘下のコムスンが起こした一連の問題について「二度と起きないようしっかり経営を行っていく」と述べているそうだが、ほとんどの人はこの言葉を信じないだろう。
一方、この経営理念についての覚悟を感じたのはグーグルである。
梅田望夫さんと茂木健一郎さんの共著のフューチャリスト宣言という本の中で、グーグルのトップページデザインについて書かれていた。
グーグルの経営理念への覚悟についての凄みは「なぜ、グーグルのトップページには、広告がないのか?」という事である。
ヤフー、グーグル等のの広告で利益を上げるビジネスモデルで考えれば、アクセス数の最も多いところが一番の収入源泉である。当然、ヤフーのTOPページは、広告でゴテゴテしている。我々も、それは仕方のないものとして見ている。
しかし、グーグルのトップページは、グーグルのロゴと検索窓だけ。(後は、グーグルのその他サービスだけ)アイ・グーグルに関しても一切の広告が入っていない。広告が入るのは、キーワードで検索を実施した際だけ。
これは、グーグルの「必要なところにのみ情報をおく」という理念の実行なのである。
TOPページの広告は、ユーザーにとって必要な情報ではない。ユーザーは調べたいだけなのだから。しかし、キーワード検索した後に出てくる広告は、ユーザーが望む情報の一部であるという考え方である。
この「必要なところにのみ情報をおく」という理念の為に、グーグルは数百億円の利益を犠牲にしている。トップページの広告であれば間違いなくそれくらいは稼ぐだろう。私のような凡人であれば、絶対に、利益に目がくらんで広告を置きたくなる。
このグーグルのトップページこそ「理念の実践とはどのような事か」というシンボリックなものである。孫子の「道」という言葉を今風に解釈すると、「理念の実行の為にどれだけ経営者は利益を犠牲にする覚悟がありますか」と言っているのではないだろうか?
プロフィール
小林 英二
ベンチャー・マネジメント代表
無限責任中間法人イー・ケィ・エィ代表社員
ITコーディネーター
経営戦略立案、ビジネステクノロジーとしてのITを中堅中小企業導入へコンサルティング。仕事を楽しくする為の楽しさ創造力の育成研修と「社員に楽しく働いてもらう事で、高い生産性を実現してもらう、21世紀型モーレツ組織」が最近のテーマ
![]() ![]() | 小林 英二 / ベンチャー・マネジメント http://d.hatena.ne.jp/favre21/ |
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| 投稿者: 未登録メンバー (0) 投稿日時: 2007-6-18 17:12 更新日時: 2007-6-18 17:12 |
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